約束の向こう側』(メノリ&シャアラ)    帰還後の創作 

 


 

 

この間、久しぶりに仲間うちを沸かせる話題が届いた。

 

もうすぐ、ルナとカオルが結婚する。

 

本人達によると、詳しいことはまだ何も決定していない、とのことだったが。

 

やはり、すぐに、周囲の方が動いた。

 

 

「式だとか、新居だとか待ってられないから、すぐに僕達で祝賀パーティ開こうぜ!」

と、パーティ好きのハワード。

「ちょうど、今手がけてる開発地区の仕事が一段落したから、すぐ、そっちに行くよ!」

と早合点のベル。

「まだ、オリオン座の果てにいて帰るのは2週間後だから、待っててよ〜!!」

と相変わらず二人の事の遅さ加減をわかっていない、シンゴ。

「とりあえず、お祝いの品、買いましょう?」

と連絡してきたシャアラ。

 

 

私も、宇宙連邦議員に着任したばかりで忙しい日々だったが。

父に、事の次第を説明すると、協力してくれた。

完全・公認の仲になっていたルナとカオルの結婚を。

祝福しない者は、もはやいなかった。

 

 

今日は、シャアラと逢って、祝いの品を買いに行く。

お互い、同じコロニー「ロカA2」にいても、仕事を持つ身。

 

逢うのは、久しぶりだった。

 

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「メノリ〜!!お久しぶりね〜!!」

 

待ち合わせのオープンカフェで雑誌を広げていると、遠くから、嬉しそうに束ねた髪を揺らせてシャアラが走ってくる。

相変わらず、その笑顔はカワイらしく、素直な印象。

作家として忙しい日々を送っているはずだが、その疲れは見えなかった。

 

「元気そうだな、シャアラ。」

「メノリも、ね。・・・・・すごいなぁ、もう立派な議員さん、て感じ。スーツ姿のメノリを見ると、もう簡単には近づけない気がするわよ?」

「そんなことはないぞ。連邦局の決まりでこの姿をしているだけだ。・・・・・中身はたいした変わっていないし、な。」

 

お互い、顔を見合わせ、クスリと笑う。

 

 

・・・・・あれから、11年も経ち。

全員が、それぞれ、仕事を持ち、夢を叶え。

その日々を有意義に過ごしている。

だが、その基盤は、やはり、あの星での日々。

養われた絆は、あの時の仲間。

その想いは、今も。

強い、心として繋がっている。

 

 

運ばれてきたアイスコーヒーを飲みながら、シャアラがつぶやいた。

「良かったわね・・・・・・。ルナとカオル。」

「ああ・・・・・そうだな。」

「ルナ、今、とっても幸せなんだろうな〜」

「幸せじゃなきゃ困るぞ?・・・・11年越しだからな。長過ぎる。」

「そうねぇ・・・・・。」

「私は、てっきり、あの5年前のカオルのライセンス授与式の数ヵ月後には結婚するんだと思ったからな!」

カオルが帰還後に宇宙飛行士になるため戻ったアストロノーツ訓練学校は、在学中、外部との接触は一切禁止だった為。

ルナとカオルが再会できたのが、彼の卒業式、兼、宇宙飛行士としての資格授与式の時。

つまり、5年前、なのだ。

 

「そういえば、あの時の二人、とってもロマンチックだったものね?」

「ロマンチック通り越して、見ているこっちが恥しくなるほど、大注目の中の再会劇だったじゃないか。」

「だけど・・・・・あの後、カオル、すぐ今の会社に就職して長期フライトに出ちゃったじゃない?

すぐに結婚は、無理だったのよ?」

「・・・・だから、アイツは呑気だ、と、常々言っていたんだ。無事、再会できて、ルナが心変わりしていなかったから良かった、という問題じゃないだろう?」

「まぁ、それはそうね・・・・・。でも!結果的に無事結婚できたわ!良かったのよ!!」

 

シャアラは昔からルナ崇拝者なところがある。

いじめられっこだった自分を救ってくれたのがルナだったわけだから、当然なのだろうが、正直、ルナが幸せであれば、他人の考えなどどうでもいいところもあるらしく、常にルナ中心に動いているころがある。

だからこそ、去年発表した、我々の遭難劇を小説化した『無人惑星 サヴァイヴ』も書けたのだろうが。

あの小説を読むと、完全なる「ルナ・ストーリー」になっていて。

しかし、実際、ルナがリーダーでルナの奇跡によって救われた星なのだから、一応それらしくまとまっているのだ。

・・・・・私に言わせれば、あれが『前代未聞のベストセラー』になっていることも驚きだが。

どうやら、仲間たちは楽しんで読んだようだ。

 

「ねぇ、メノリには言ってなかったわね?」

「何をだ?」

「私ね、あの小説が出版された時、地球にいるルナに遊びに行きがてら、届けに行ったんだけど。」

「ああ、そういえば、ルナが前にそう言ってたな。・・・・すぐ帰ってきたんだろう?」

「ええ、・・・・だってね。カオルが突然来たから。」

「別にいいんじゃないのか?引き止めたのに、かまわずシャアラは帰ってしまった、と嘆いてたぞ。」

「無理よぉ!・・・・・あんな話を聞いた後では、ね?」

 

そう言って、思い出したように含み笑いをし。

シャアラは語りだした。

 

 

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ルナがテラフォーミングを行っている職場は、昔、旧地球時代には華やかで観光の中心にもなっていたという大きな都市の跡地。

その高台に、テラフォーミングマシンが築かれ、そこに隣接された観測所で日々の環境の変化を調べるのがルナの仕事。

思ったよりも仕事はきつく、早朝から深夜までの過酷な作業だと、言っていたルナは。

いつも、嬉しそう、で。

 

シャアラは、何度か訪れている、ルナの仕事場まで、エアタクシーで向かっていた。

まだ、頭上の雲はドス黒く、厚いが、それでもその隙間から太陽の眩しい光が漏れていた。

 

本物の・・・・・太陽。風、雲、空気。

 

思い出すなぁ、とシャアラは思う。

このなんとも言えない本物の心地よさを11年前にも経験した。

この地球も、いずれ、あの星のように、生気を取り戻すのだろう。

ルナの力で。

 

観測所に到着して、ルナを呼び出してもらった。

以前にも会った、ルナの後輩技師のキティが満面の笑みで出てきた。

 

「シャアラさん!!」

「キティさん、お久しぶりね。」

「聞きましたよ〜?『無人惑星 サヴァイブ』の発売、おめでとうございます!!」

「ありがとう。押し付けがましいようだけど、みんなの分も持ってきたのよ。受け取ってくれる?」

「やったぁ〜!実は期待してたんです〜」

 

キティは今年23歳の惑星開拓技師。聞けば、自分達の遭難事件で夢を持ち、ルナにあこがれて地球任地を希望したのだという。

 

「ルナは?」

「ルナ先輩、午後から休暇とってるんです。シャアラさんが来たら案内するよう頼まれてたので!」

「助かるわぁ。だって、ここって迷路みたいなんですもの。いつ来てもルナの部屋まで辿りつけないのよ。」

「だと、思いました!」

 

若い彼女は快活で美人だ。

前向きな思考は先輩であるルナの影響なのかもしれない。

そんな彼女の後に付いて、両側に緑の鉢植えをぎっしり置いてある長い廊下を歩きながら、シャアラは手に持った新刊の小説を握りしめる。

ルナ、これを読んだらどう思うかしら。

帰還してしばらく経って、ルナとカオルがお互い同じ想いを抱いていることを知って。

ちょっとだけ、二人だけの話も書いたのよ?

いつか見た、月の光の下、二人が並んで座っていた光景が、あまりにもキレイだったから。

その時からずっと、私、ルナはカオルと幸せになるのかな、って思っていたの。

それが、現実になるといいな・・・・・って。

 

「ねぇ、キティさん、カオルはルナに逢いにきてる?」

 

何気なく言った言葉だった。

キティの少し曇った表情に、シャアラはハッとする。

 

「どうしたの?」

「・・・・・カオルさん、最近来ないんです。ルナ先輩によると、『長期フライトで帰れないから仕方ない』って言ってたんですけど。どうやら、今、連絡も取りにくい場所にいるみたいなんですよね。ルナ先輩も心配そうなんです。」

「そう・・・・・。」

 

ルナは辛いとか寂しいとか、負の感情を口に出さない。

例え、思っていても、自分の心の中にしまい込んで、表に出さないのだ。

カオルの仕事は宇宙中を飛び回るわけだから、当然、何ヶ月もフライトにかかり、逢えないのは当然、の世界だが。

それを、寂しく思ってないはずはないわけで。

だが、ルナは今も昔も、その想いは周囲に吐き出せないようだ。

多分。

カオルがその役目を担っていたはずだ、とシャアラは思う。

でも、当のカオルが原因になっているのでは・・・・・・・。

全く、救いようもない、現状である。

 

「私、思うんですけど。」

 

キティがフイに立ち止まって、空を仰ぐ。

 

「ルナ先輩とカオルさんて、遭難した時からの付き合いですよね?・・・・・もう何年も経ってるのに、ルナ先輩、よく待てるな〜って。・・・・私、ダメです。好きな人がそんな遠くにいて、滅多に逢えないなんて。だって、心配で心配で眠れなくなるわ!逢えない間に、彼が私を忘れちゃうかもしれない、もしかしたら、好きじゃなくなっちゃうかもしれない・・・・・。」

「そんな・・・・・。」

「カオルさん、モデルみたいにカッコイイじゃないですか。私達、女子職員の中でもアイドル的存在なんですよ?だから絶対、どこに行っても人気者に違いないわ!カオルさんはルナ先輩一筋でも、他の女が邪魔してくるかもしれないし!」

「でも!ルナもカオルも、そう簡単に心変わりなんてしないわよ!あの二人は離れていたってずっと心は繋げてきたんだから・・・・。」

 

キティはそんな力説するシャアラを振り返って、うつむくと、また廊下を歩き出した。

拗ねたような表情だ。

 

「私、わからないです。何がルナ先輩とカオルさんを繋げているのか。確かに、昔の経験は絆としては十分かもしれませんけど。」

 

シャアラも歩き出す。

 

「こうやって、逢えない間、ルナ先輩はその不安をどうやって追いやってるのかな。こうやって連絡がなかったら不安になるのは当たり前でしょう?」

「・・・・・・・。」

 

キティの問いかけに、シャアラは答えられなかった。

「絆」と一言で言ってしまえば簡単だけど。

確かに、その定義は難しい。

ルナは、今、そんなカオルをどう思っているのだろうか。

 

やがて、建物の端から端までズラリと扉が並ぶ、宿舎塔に着いた。

シャアラにとっては全部同じに見える扉を前に、キティはいとも簡単に走りより、ルナの部屋の呼び出しコールを鳴らす。

インターホンの返事もなく、突然扉が開いた。

 

「シャ〜アラ!!」

「ルナ〜!!!!」

 

以前より、いくぶん髪も伸び、少し日焼けした印象のルナの笑顔が迎えてくれた。

太陽の下、作業にいそしんでいるのだろう。

 

「元気だった?よく来てくれたわね!!」

「ええ、ルナも!・・・・・ちょっと痩せたんじゃない?」

 

シャアラの言葉にルナは少し複雑な顔で笑った。

そして、シャアラの隣に立つ後輩に視線を移す。

 

「さ、本日夜まで勤務のキティはすぐ戻るのよ!」

「え〜?もっとシャアラさんと話したいのに〜」

「ダ・メ・よ!そんなんじゃ、立派な惑星開拓技師になれないんだから!」

「はぁ〜い。」

 

駄々っ子をあやす様に、しかし、「ご苦労様!」というねぎらいの言葉も忘れずに、ルナはキティを送り出した。

そして、シャアラを部屋に招き入れる。

以前と変わらない、ナチュラル思考の柔らかなカラーの家具や小物が多い部屋。

ルナは元々、センスがいいから、部屋もくつろげるインテリアだ。

隅にあるキッチンでルナはお茶を入れてきた。

 

「ハイ!シャアラの好きな特製ハーブティよ!」

「ありがと。」

「何ヶ月ぶりかなぁ、シャアラが家に来るの!・・・・・前、逢った時は私が研修でロカA2に行った時だったしね。」

「そうねぇ、そう考えると、かなり前、ね?」

 

そう言って、シャアラは隣に座ったルナを見て目を見開く。

さっきまで気付かなかったが、間近で見ると、ルナの頬に、涙、の後。

 

「ルナ・・・・・・!」

「え・・・・・・・・?」

 

その原因なんて、目下、カオル意外考えられない。

カオルったら、ルナを泣かせて平気なの!?

シャアラは一気にカッとなり、思わず立ち上がって言ってしまった。

 

「ルナ!!連絡とれないなんて何とかならないの!?直接とれないなら、会社に連絡するとか・・・!何なら、ハワードやメノリに頼んでみるっていうのはどう?あの二人ならきっと、宇宙管理局や宇宙連邦に知り合いがいるんじゃないかしら!今、カオルのシャトルがどこにいるかきっとわかるわよ!」

「・・・・・・・シャアラ。」

 

シャアラの様子にキョトンとしてルナは青い瞳を見開いている。

やがて、状況を察したように、クスクスと笑いだした。

 

「ルナァ?」

「やだぁ、シャアラったら、来るなりそんなこと言って、ビックリしちゃった!」

「・・・・・だって、カオルと連絡とれないんでしょ?」

「うん、今は、ね。でも、帰ってきたらちゃんと連絡するって言ってたし、心配してないわよ。」

「でも・・・・・。」

「キティでしょ!そんな余計なこと言ったの。」

「うん・・・・・・。でも、キティさんも心配してたのよ?」

「そうね、あの子も『カオル・ファンクラブ』の一人らしいから。」

「カオル・ファンクラブゥ!?」

 

二人で顔を見合わせ、フフッと笑う。

確かに、キティが言うほど、ルナはへこんではいないようだ。

やはり信頼している証、なのかもしれない。

 

「ルナは強いわね・・・・・・。」

「そう?」

「キティさんが言ってたの。ルナ先輩とカオルさんを繋げているのは何だろう、って。・・・・確かに私も知りたいな。・・・・・私もルナみたいになりたいもの。」

「・・・・・・・。」

 

ルナはそれには答えずに、静かにソファを立ち上がった。

それを目で追うシャアラに笑いかけ、ゆっくりとコンピューターの前に座る。

そして、メール起動画面を出した。

 

「ルナ?」

「・・・・・今ね、シャアラを待ちながら、メールの整理をしていたんだけど。とっても懐かしい内容のものを発見したの。」

「・・・・・なぁに?」

「ずっと。ずっとね、私の心に大きな希望として宿ってくれていたもの、よ。」

 

・・・・・そう言って、ルナは。

メールの一つを再生した。

シャアラは無意識にモニターの前に、進み出る。

やがて、画面一杯に、懐かしい顔が現れた。

 

「あ!カオル・・・・・・!」

「すごいでしょ?11年前のメールよ!」

「でも、・・・・・これって。」

 

あの星での、この目に焼き付いているカオルの姿は、少し長めの髪で、切れ長の黒い瞳を隠しがちだった。

しかし、このモニター画面に写る彼は、髪はスッキリと切られ、その長く端整な首筋と意思の強そうな瞳が、しっかり姿を現した、

シャアラの記憶にない、姿だった。

 

カオルがソリア学園の卒業式を待たずに、アストロノーツ・スペースコロニーに向かった後、仲間達が再会したのは、彼の訓練学校の卒業式。

その時の姿は、確かに、今見ているような短髪であったが、それは既に20歳に成長したカオルだった。

 

・・・・・今、モニターの彼は。

確かに、シャアラのよく知る、14歳のカオル。

 

「ねぇ、ルナ、これって、あの『カオルがルナだけに送ったメール』でしょ??」

「うん・・・・そう・・・・・・。」

「私、見ちゃっていいの!?」

 

カオルの出発を、本当は全員で見送るはずだった。

しかし、彼は一日早く、行ってしまった。・・・・誰にも告げずに。

しかしその刹那、彼はルナにだけはメールを送っていたのだ。

ルナ自身にその事実を聞かされ、ハワードは、どうしてルナにしか送らないんだ!?と怒っていたが。

その他の仲間は黙っていた。

わかっていたのだ。

カオルのルナに対する、言い知れない、想いを。

そして、それを告げたルナの泣きはらした瞳を見て。

誰もが、誓った。

 

・・・・・触れてはならないのだ、と。

 

メノリはその時言った。

 

『きっと、そのメールの内容は、カオルがルナに約束した、何か絆のようなものだろう。』

 

 

 

今となっては、もう、その事を誰も追及することなく。

ルナとカオルは無事再会し、恋人としての道を歩き出した。

しかし、きっと、未だに、そのメールは二人にとっては神聖なもので。

誰も踏み込んではならない領域に違いない、のだ。

 

 

 

「ルナ!・・・・やっぱり、私、見なくていいわ!ルナとカオルの大事な約束なんでしょう?」

「うん・・・・・・・。」

「じゃあ、やっぱり、私なんかが見ちゃダメよ!」

「そんなことないよ、シャアラ。」

「だって・・・・・!」

「シャアラ、私、シャアラに見て欲しいの。」

「ルナ・・・・・・・。」

「親友のシャアラには、知ってもらいたい。あんまり見せてくれない、カオルの心。・・・・私ね、これを見て、ずっとずっと、待っていよう、って決めたんだ・・・・・・。」

 

 

やがて。

モニター上の14歳のカオルが語り出す。

 

訓練開始が早まってしまって一日早く出発してしまったこと。

誰にも言わずに出てきてしまって申し訳ない、と。

見送ってくれる、と言ったみんなにも、申し訳ない、と思っている・・・・・。

 

しっかりとした口調で。

しっかりと見開いた黒曜石の瞳で。

しかし、その口元が僅かに震えているのを、シャアラは見逃さなかった。

その時のカオルが何を思い、

何を伝えようとしたのか・・・・・・。

 

そして。

 

『・・・・・・・ルナ。・・・・・・・目を閉じて、みろ。』

 

モニターごしに、差し出された、手。

 

フイに隣りで、黙ったままそれを見ていたルナが、音もなく立ち上がった。

そして、当たり前のように、モニターに手をかざし、カオルのその手に重ねるように、添える。

シャアラはそれを、一つの物語を鑑賞するように、見ていた。

 

『・・・・・・・今度。また、逢う時は。』

 

今、25歳のルナが。

15歳のカオルと手を合わせ。

お互い、目を、閉じる。

 

・・・・・・・その、想いを確かめるように。

・・・・・・・その、記憶を確かめるように。

 

『俺は、パイロット、で。・・・・・・お前は、惑星開拓技師、だ。』

 

静かな、カオルの言葉、に。

そして、そんなルナの姿に。

シャアラは、目を離せずにいた。

 

 

『それまで。・・・・・・・・待っていて欲しい。』

 

 

 

 

・・・・・メール再生が終わっても。

シャアラは、いつまでも、溢れる涙を拭えずにいた。

ルナは、そんなシャアラをとても満ち足りた表情で黙って見つめていた。

こんな・・・・・・・こんな深い、約束があったなんて。

こんなに信じあえる心があったなんて。

こんなに・・・・・・・・。

 

 

「シャアラ、もう、泣かないで?」

「だって・・・・だって、ルナ。私・・・・私・・・・・!」

「良かった。やっぱりシャアラに見てもらって。シャアラならきっとわかってくれるって思ってたわ。・・・・・・あれから11年も経っちゃったけど、私、この時の気持ちが続いてるって信じてるの。」

「ルナ・・・・・。」

「カオル、ね。」

 

ルナは、シャアラの手をとり、自分の手と絡ませた。

そして、ギュッと力を込める。

 

「私が弱気な顔してる時、今でもこうやって時々、手を握ってくれる。あの時と、同じように、『目を閉じてみろ。』って。・・・・・・私、その時、思うんだ。きっと、私達、今でも気持ちは変わらない。疑う必要なんて、ないんだ、って・・・・・・。だから、私は大丈夫なの。」

「・・・・・・・・・。」

 

二人の間、には。

既に、絆だけではなく。

確かな、愛が存在しているんだ。

 

「・・・・・一緒にいなくても。離れても・・・・いつも・・・どこにいても・・・・・。」

 

呪文のように、目を閉じて、ルナがつぶやいた。

その顔は、とっても幸せそう、で。

 

・・・・・心配する必要は、ない、みたい、ね。

そういえば、メノリもそう言ってた、なぁ。

 

再び、シャアラの顔に笑顔が戻り。

ルナもまた微笑む。

・・・・・来て、良かった。と、シャアラは思う。

ルナの元気をもらえたわ。

 

 

 

やがて、ほどなくして、世間話もしないうちに、部屋の隅にある内線コールの呼び出し音が鳴る。

 

「え〜!?・・・・やだなぁ。キティったら、ちゃんと休暇届け出してって頼んだのに〜!」

仕事の呼び出しらしい。

重なるように、玄関のチャイムが鳴る。

「ルナ?誰か来たわよ?」

「ゴメ〜ン!!シャアラ!!代わりに出てくれる?」

「・・・・いいわよ。」

 

ルナはコールの受話器を握り締め、「え〜〜〜〜!!!」と何かに驚き叫んでいる。

どうやら、仕事面でトラブったらしい。そんなルナを見て微笑んでから、シャアラは玄関の扉を開けた。

 

・・・・・・目の前に、黒光りした航空会社の強化レザー・ジャケット。

この観測所では見慣れない姿に驚き、シャアラは、そのまま視線を上に上げた。

長身のその人物も・・・・・・思いもよらない人物に驚き、シャアラを見下ろしていた。

 

「カ、カオル!?」

 

「・・・・・・シャアラ?」

 

ポツリとつぶやいた、その声も。

確かに懐かしい、あの時のまま。

その切れ長の黒い瞳も、艶のある黒髪も。

記憶にある姿よりも更に精悍な顔つきになって、・・・・・カオルは立っていた。

 

そこへ、バタバタと玄関へ駆けてくる騒々しい足音。

 

「あああ〜〜〜〜〜!!????ホントにカオル!!!」

「・・・・・・相変わらず、騒々しいな。・・・・・ルナ。」

「いつ帰ってきたのよぉ〜〜〜????」

 

ポカンと突っ立ったままのシャアラを目の前に置いたまま、彼女の頭向こうに見えたルナに、それこそ相変わらずのセリフを吐きながら、柔らかくフワリと笑う、カオル。

そして、再び、シャアラに視線を戻す。

 

「・・・・・・来てたんだな、シャアラ。久しぶり。元気だったか・・・・・・?」

 

 

 

・・・・・約束は、今も、ずっと、守られている。

 

 

 

_______________________

 

「無理、だ!!・・・・・・確かに、そんなメールを見せられた後、で、その本人と、平常心で話を

するなんてこと・・・・・!」

 

メノリは顔を真っ赤に紅潮させて、動揺していた。

予想はしていたが・・・・・いや、予\\\\想以上の話、だった。

全く。・・・・・奇跡の少女は奇跡のカップルになったわけ、だな。

 

「そうでしょう?・・・・・・ルナも久しぶりに会ったんだし、二人きりでゆっくり話をしてもらおうと思って・・・・・。」

「・・・・・しかし、カオルのやつ、そうやって、長期間連絡しないで心配させても、いきなり事前メールもせずに押しかけてるのか!?」

「・・・・・私が玄関チャイムに出る前に来た、内線コール。あれが、キティさんからの事前連絡だったみたいよ?・・・・・・これから、カオルさんが行きますから、っていう・・・・・・。」

「だから!!普通は、明日、行く。とか、今日、午後から行く、とか時間に余裕持たせるだろう!?」

「・・・・・・カオル、いつもそうみたいよ?そろそろ、行ける、っていう一週間前くらいのメールはあるみたいだけど、その次の連絡は、着いたからこれから部屋に向かう、っていう・・・・・・・。」

「アイツ、常識ってものを知らないのか!?」

「・・・・・・でも、ルナは嫌がってないみたい。観測所の人たちも、カオルがいきなり自家用シャトルで乗り付けてくるのにも慣れた、って。」

「・・・・・・・・。」

 

なるほど、あのバカップルに周囲も毒されているわけ、だな?というメノリの呆れたようなつぶやきに。

シャアラは、声をあげて笑った。

 

メノリは、そんな彼女の肩越しに空を仰ぐ。

このコロニーの偽りの空も。

今日は、とても清々しく見えた。

 

 

・・・・・そんな奇跡のカップルは、きっと本物の空の下、本物の緑の中で誓いの式を挙げるのだろう。

 

私達が、昔、描いた未来は。

 

今、形、となって。

 

 

_______________________

 

来期からは、宇宙連邦として、惑星サヴァイヴとの交流も始まる。

モニター上で見たアダムは、すっかり青年に成長して、母星のテラフォーミングに関する仕事を続けながら、絶望の時期を一人乗り越えた『希望の星』として、今やあの星の中心となっていた。

メノリが譲ったヴァイオリンをモニターごしに奏で、早く、みんなに逢いたいよ、とアダムは言う。

確かに、最初に覚えた、私達の言葉、で。

 

逢えるさ。アダム。

早く、交流を確立し、みんなでアダムに逢いに行こう。

私達が他人種との架け橋となり。

美しい自然を共に守る心をもつ、仲間、として。

 

成長した我々が。

成長したお前に、逢いに行く。

 

 

ああ、未来は、とても、楽しく、素晴らしいものだ。

私達は、この未来を自分達で築き上げたのだ。

あの星での経験を基盤に。

更に、未来を作り上げていく。

 

 

だから、私は、お前に確かにあの時言った。

 

 

『・・・・・・・約束、だ。必ず、逢おう。』

 

 

 

 

・・・・・・約束が守られたあかつきには。

その向こう側に。

「希望」が見える・・・・・・・・・・。

 

 

END

2006

 


 

eriy

とうとう、カオルの恥ずかしいメール、公開(笑) 

ルナ25歳の時点での地球は、最終回のシーンから考えて、かなり未開発で、シャトルもまだ自由には行き来してないのはないかと考えました。エアポートも普及してないから、カオルはいきなり観測所の前にシャトルを乗りつける・・・・ってな訳です。考えてみれば恐ろしい(笑)

2006.9.13