1:『未来へ』(ルナ&メノリ)帰還後の創作

 


 


・・・・・よ〜し・・・・・。今日はいないな・・・・・?

一日が終わり、夕暮れ。
サヴァイヴ星で見た、本物の夕日に比べたら見慣れた人工の夕日もちょっと寂しく感じる。

でも、私達は、無事帰ってきたんだ。
全員で。あの日旅立った日と変わらないままの、このコロニー「ロカA2」へ。


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ルナはドームに映る夕日を、同じ輝きを放つその橙色の髪に透かせて、物陰からそっとアパートメントのエントランスを覗いた。

帰還してから、ここ数日までずっと、TVや雑誌のリポーターたちやカメラマンが張り付いていて、ルナたちを質問攻めにするのだ。
それはもちろん、ルナに限らず、他のみんなも同じことで。
私達は改めて『ソリア学園の研修旅行生・奇跡の生還劇!!』が宇宙的大ニュースだったことを思い知らされる。

人影がないことを確認しつつも、キョロキョロと視線を動かしながら急いでエントランスを抜けた。小走りに廊下を抜け、見慣れた部屋の扉の前まで来てやっと安堵する。

「・・・・たっだいまぁ・・・・わっ!!!!」

一人(一匹・・・?)留守番をしているはずのチャコに疲労を演出して肩を落としながら扉を開けると視界一杯にピンクが映った。
「ルナ!」
チャコがルナの帰宅と同時にジャンプして接触危険範囲ギリギリラインまでせまってきた。
「ちょっとぉ!ビックリするじゃない〜!・・・・どうしたのよ?」
「おかえり。・・・・・その〜・・・・。」
「?」
ピョンッ!と椅子の上に飛び乗ったチャコの表情は珍しく硬い。

「・・・・・さっき、メノリからテレメッセージ入ったで。」
「本当!?」
「メノリのおとんからの確かな情報やて。・・・・・カオル、やっぱ審問会にかけられそうや。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう。」


ズキリ、と。胸に痛みが走る。
カオルは今日も学校に来ていない。
遭難してからもしばらくは氷の眼差ししか見せなかった彼は。
日々のみんなの心や温かさに触れて。
少しずつ・・・・・そう、少しずつ。
やっと、変わってきたのに。

みんなを救うため、生きるために。
その心に深く刻まれた闇を乗り越えて、差し伸べてくれたその強い力が。
何もかも終わったと思って息をついた今、仇となって返ってくるなんて・・・・・・!!。


「ルナ・・・・・・・・!」
思わず唇をかんでうつむいたルナをチャコが心配気に見上げる。
堪えてるつもりでも、たちまち視界が潤んできて涙がどんどん溢れてきた。
悔しい・・・・・・!
「チャコォ・・・・・・!悔しいよ・・・・・!」
「ルナ・・・・・・・・」
「ひどいじゃない・・・・ひどすぎるよ・・・・!」


問題となっているのは。
宇宙飛行士訓練学校を経験している、というだけでライセンスなしのまま宇宙船を操縦した、という事実であった。
14歳という年齢。この歳でライセンス獲得はありえないし、しかも、操縦してきた船が他種族のものであったということも災いした。
乗っていたのはみんな。
だけど、何故、か。
非難はメインで操縦していたカオルに集まった。

・・・・・・どうして?
・・・・・・どうして、「また」非難、なの!?

フイにテレメッセージ着信のコールが響いた。
「あっ!!きっとメノリや!」
泣いているルナを気遣ったチャコがあわてて椅子から飛び降りると弾むようにコールに向かって走り寄り、受信ボタンを押した。

『ルナか?』
懐かしい声。
モニターに、変わらないアッシュブルーの長い髪が映る。
「メノリ〜!ルナ、帰ってきたでぇ!」
『・・・・また、チャコか。早く、ルナを出せ。』
「また、とは何や!?ウチがおらんと、ここの家はいつも留守電やでぇ〜?感謝しぃや!」
『あぁ、あぁ、わかったから、早くルナを出さないか!』
メノリは不機嫌気味に腕を組み、息をついていた。
「あ〜・・・・・・・・、ちょいと待ちぃや、ルナはその・・・・・・・。」
『何だ!?いるんだろ?』

チャコがまだ目を真っ赤にしているルナを気遣ってくれていることはわかった。
ルナはあわてて、涙を拭う。
メノリが話を急かす理由がわかるからだ。

「いるわ!ゴメンね、メノリ。」
『ああ、ルナ・・・・・・・。』
モニターにルナの姿を認めたメノリはハッと表情を動かした。静かに眉をひそめる。
そして、大きなため息をついた。
『・・・・・・チャコから話は聞いたんだな。』
「うん・・・・。聞いた。」

しばしの沈黙。
きっとメノリだって同じことを思っている。

『つい、さっき、決定した、と父から連絡があった。・・・・・・父もハワードの親父さんもかなり頑張ってくれたようだが・・・・・。』
「うん・・・・・。」
『今頃、カオル自身にも知らせがいっていると思う。多分、他のみんなにも。』
「うん・・・・・。」

ダメ、だ。また。
泣きそう。

「ありがと・・・・メノリ。知らせてくれて。」
『ルナ・・・・・・・。』

ダメ、だ。
こんなことじゃ。・・・・・一番、辛いのはカオル本人だ。

『・・・・・すまない、ルナ。・・・・・こんな時に、私は傍にいてやれなくて。』
「あはは、仕方ないよ、メノリ。こうやって連絡係かってでてくれただけでも嬉しいのに。」
『ルナ、近いうちに予備審問会が開かれる。その時には必ず、行くから。』
「ありがと、メノリ。・・・・・だって遠いじゃない。」
『・・・・・・っ!!バカ!!遠くたって・・・・!・・・・・・行くさ!・・・・私一人、逃げてきてしまった。私にできることといえばこれくらい・・・・!』
「メノリ・・・・!そんなことない・・・・っ!」
『・・・・・・すまない・・・・・・。』


メノリの優しさ。
今はアダムが奏でているであろう、あのヴァイオリンのよう、に。


帰還後、『奇跡の生還』ともてはやされたのは数日だけだった。
実際、私達は毎日、カメラやインタビューに追い掛け回され、私生活を脅かされ、学校ではみな遠巻きにされた。
大人達は私達・仲間を「保護」と銘打ち、それぞれ屋内に押し込めた。そこで、児童保護局やら宇宙管理局から環境保護庁まで出てきて、散々同じ話をさせられ(遭難までの経過を知りたかったらしい)散々調べ上げられ私達は疲れ果てていた。

私達は、『奇跡の生還を果たした英雄』ではなく、
『他種族と関わった異端者』にすぎなかったのだ。

この扱いにもっとも強く意義を唱えたのが、「ヴィスコンティ一族」メノリの父親だった。
日々の取調べでストレスが重なったメノリは食事も摂れなくなり、そんな娘を心配した父は、彼女を木星にある全寮制の名門女子学園に送ったのだった。


『・・・・・始めはみんなと引き離した父を恨んだりもしたが・・・・・、今は感謝している。あの時の私は疲れのあまり、みんなの優しさにさえも気を尖らせていた。・・・・・情けない話だがな。』
メノリは目を細め、悲しげに言った。
よく、わかってる。
だって、ちゃんと、みんな、そんなメノリを見ていたから。
『・・・・・・でも、辛いのは、みんな同じだったんだ。あの星にいた頃のように、もっと気丈な心を保てていたら・・・・・!』
「メノリ。」

顔を上げて、彼女はルナを見つめる。
わかるよ。
メノリのその瞳が、ちゃんと今のメノリの心を写してる。

「・・・・大丈夫だよ。みんな、わかってるよ、メノリ・・・・。」
『そうか・・・・・・。』

そんなルナとメノリのやり取りをずっと黙って見ていたチャコが横から顔を出した。
「心配無用や!メノリ!・・・・例え、今はバラバラになっとってもみんなの心は一つ!!今頃、全員が同じようにカオルのこと心配しとるハズや。もうすぐ、シャアラが駆けつけてくるんやろうし、ハワードやベルもきっと長電話しとるルナにイライラしとるとこやでぇ〜!?」
『・・・・・・・そうだな。』

少し笑みを浮かべてメノリが答える。
ルナもそれを見て、ちょっと笑った。


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帰還後すぐにロカA2を出ていったのは、メノリだけではなかった。
無事生還した息子をいち早く後継者に育てようと思ったらしいハワード財団の会長は、経営学を学べるセクションを備えた上流階級の子供たちが集う伝統校に息子を送りこもうとした。
しかし、ハワードはそれに反発し、家出したのだ!!
彼いわく、
「最初で最後の家出」
だそうだ。
元々、親の七光りであちこちにコネがあったハワードはあっさりとコロニーを出て、冥王星近くのスペースコロニーにある演劇学校に行ってしまったのだ。
どうやら、演技に目覚めたのは偶然ではない・・・・・?

時を同じくして、ベルもロカA2を出ていくことになった。
遭難中、無事を信じたベルの父親は、会社を休んで宇宙中を単独で捜し歩いていたという。
何ヶ月も欠勤が続いたため、ハワード財団の傘下だった会社をクビになってしまった。

私達が帰還したあと、ベルの父親は自分で小さな惑星開発事業の工事を請け負う会社を立ち上げたという。・・・・・・ベルの生まれ故郷である、冥王星に。
ベルはそんな父親を助けたい、と、学園を辞めて家族で冥王星に渡っていった。



・・・・・・・・・ソリア学園・ジュニアセクション卒業間近にして、このロカA2に残っているのは。

シャアラ、シンゴ、カオル、私・・・・ルナ。


・・・・・・そして、今、また。
一人。・・・・・カオルが。



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『・・・・・カオルはどうしてる?』

メノリの言葉にハッと我に返り、ルナは顔を上げた。
事実。
事実を、言わなきゃ。
「・・・・・学校には。来れないみたい。」
『休んでいるのか!?』
「うん・・・・・。いろいろ、ね。状況を記録として残さなくちゃいけないんだって。毎日、その書類を書かされるために宇宙管理局へ行っていて、学校に顔を出せないだけだから、心配するな、って・・・・・メールきた・・・・・・。」
『・・・・・そうか・・・・・』


メノリも知っていた。
もし、審問会でノーライセンスでの宇宙船操縦を罪だとされてしまったら、今後、カオルは宇宙管理局の保護下に入る。
14歳という年齢を考慮されても、少なくとも、数年は地球軌道上に位置するスペースコロニー内の施設に半拘束されて過ごすことになるのだ。
ロカA2を出ていかなくてはいけないのはもちろん、両親とも離され、夢を絶たれ・・・・・。

もちろん。

カオル自身もそれをわかっていた。

『・・・・・もし、パイロットになれなくても。』

いつのことだったろう。
遭難までの経緯を事細かく校長に聞かれ、みんな疲れきって学校の屋上で、ロカA2の夕日を見ていた。あの日。

『後悔、はない。・・・・・・アダムの星の、あの素晴らしい宇宙船を操縦できたから。』

カオルは。
真っ直ぐな瞳で夕日を見ていた。

『あ〜!???バッカやろぉ!カオル!あれは全員で操縦したんだろ〜?』
夕日に背を向けて、ハワードが得意げに言う。

『そうさ!!みんなの力だよね!!』
シンゴがニッコリ笑って夕日に顔を染める。

『大丈夫よ、カオル!きっと、わかってもらえるわ!カオルが操縦できなかったら、私達帰ってこれなかったんだもの。カオルのおかげなのよ!』
ルナの隣でシャアラが笑った。

『・・・・・確かに、そうだな。おい、ハワード、やはり、あれはカオルがいないと成り立たないものだ。』
メノリがハワードを振り返る。
ハワードは顔をしかめてアア〜〜ン!?と唸った。

『そう、みんなで「あれは生きるための手段だった」って主張すればいいよ!だろ?ルナ。』
ベルが正論を並べ、皆が頷く。
そして、皆がリーダーのルナを見る。

『そうよ、カオル。』

カオルも振り向く。

全員の顔が夕日の赤に染まっていく。






『一人じゃない。みんながいるわ。』




・・・・・・・・あの時は。
まだ、みんなが、いた。

あの、すぐ後だった。
この問題が浮上し始めて、TV局や雑誌社がこぞってカオルの過去を洗い出した。

あの、冷たい日に。
彼が涙とともに血を吐くように搾り出した、悲しい出来事、も。

世間はまるで、映画やドラマのように、おもしろ・おかしく脚色した。
「奇跡の生還劇」のニュースに乗っかって、「パイロットとなった少年のいわくありげな過去!」
だなんて。







「メノリ。・・・・・・・私、ね。」

フラッシュ・バック。
・・・・・よみがえるのは、あの日の彼の凛とした横顔。

「・・・・・知ってたんだ、カオルの、あの、話。」
『アストロノーツ時代の話をか!?』
「・・・・・。」

うん、という返事さえも、出てこなかった。
喉の、奥。熱くて、痛い。
この、胸も。



この思いは、どう伝えればいいだろう。
目の前にいるメノリにも。
チャコにも。
私たちの、生きるために歯を食いしばり続けた日々を知らない、
世の人々にも。



そして。
こんな状況にいても、なお。
凛とした表情を見せ続けていた、
あの日の少年にも。




『・・・・・よく、聞き出せたものだな。あのカオルから。』
目を丸くしてメノリはポツリと答えた。
ルナの膝の上におさまっていたチャコさえも、ホンマやなぁ〜とつぶやく。
後半、かなり丸くなって協調性という言葉も見え隠れしてきたカオルも、どうやら、彼女にとっては最後まで「一匹狼」だったようだ。
メノリは、口元に手をあて少し考えるような表情をしていたが、突然、スイッとモニターごしに近寄ってきた。
『アレ、だろ?』
「・・・・・・え?」
「なんや、メノリ。けったいやな。」
怪訝な顔をしたルナとチャコを見て、メノリはふふんと笑う。
『あの冬の日の・・・・ルナがカオルを一人で探しにいった、あの日、だろう?』

「!!!!」

予測しえなかったメノリのつっこみにルナは思わずのけぞってしまった。
一緒にバランスを崩してチャコまで、おっとぉ〜!とよろけたが、同時にぽんっ!と手を叩く。

「あ〜あ〜!あったなぁ〜、そんなことが。アレやろ?アダムやシャアラが、『ルナまでいなくなっちゃったらどないしょ〜!』って心配しとったって〜のに、ハワードが一人、『案外、カオルとルナ、二人の世界であっつあつ♪の外泊ターイム!なんじゃないか〜?』なんてバカなこと言いよったからベルが怒って足クジぃとるってのに、みんなが止めるのも聞かんで探しに行こうとしよったから結局、全員で探しに行こう!!・・・・・ってなった、あの日やろ!?」
「ええ〜〜〜!!?ヤダ〜!そんなこと話してたの!?みんな!!」
ルナが立ち上がって抗議したので、とうとうチャコが膝の上からポロリと落ちた。
メノリがクスクスと笑っている。
『まぁ、落ち着け。・・・・・思えば、あの日からヤツは変わったよ。』
「ええ〜?・・・・そうかなぁ?」
『ま、わかるやつにしかわからなかったようだがな。あの日から、カオルは徐々に「みんなを見る」ようになった。いつも背を向けていたのに、ちゃんとみんなの目を見て話すようになった。仲間の話に耳を傾け、助言をし、率先して警護についてくれるようになったろう?』
「言われてみたら、そ〜やな!」
チャコも納得顔。
『・・・・・なんだ?ルナ。嬉しそうだな?』

言われて、自然に顔がほころんでいることに気が付いた。
それはね、メノリ。

「嬉しいの。・・・・・メノリ、ちゃんと見ててくれたんだなぁ、って。さすがだな、って!」
メノリはそんなルナを見て呆れたように脚を組み直した。
『・・・・・ベルもちゃんとわかっていたぞ。』
「ええええ〜〜〜!!!!!」
再び、シャキン!と立ち上がったルナにぶつかって、チャコが再びおっとっと!とよろける。
『ベルはもっと深読みしていたな。「きっと、二人でビバーグした日にルナがカオルに何かを説得したんだろう」って言ってたし。「ルナは他人の心を掴むのが上手いから、カオルもきっとルナにだけは心を開いたんだろう」とも言っていた。』
よろけて転びそうになっていたチャコを抱き上げて、ルナは再び椅子にすわり直すと改めてモニターに写るメノリを見る。
珍しいなぁ〜、メノリったら。
こんないたずらっ子みたいな顔。
『・・・・それに、「オレには無理だったけど。」とも、な。』
少し。悲しげな表情になる、メノリ。
あ。
・・・・・メノリも、知ってる、の、かな。
ベル、の心。
優しい、ベル。
「そんなことない!!・・・・・・・・って、そういえば言ったっけな、私。」
『ん?』


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メンバーの中で、一番年上で。
だけど、そんなことを感じさせないくらい、いつも後ろの方でみんなを守るように大きな心で包んでくれていたベル。
思えば、彼が一番、あの生活で行き続けていく為の知識をくれた。


ベルは。
このコロニーを出ていく、と決めたその日に。
私にこう言った。

『オレのこと、見えてる?』
どういうこと?と純粋にルナは聞いた。
今、まだベルは目の前にいる。どうしてそんなこと聞くの?
『オレ、確かにみんなより2つ年上、だけど。まだ、世間的には子供、だから。』
そんなの、私達だって同じだよ。
『ルナをちゃんと守りたい、けど、まだ。その力がない、って思うんだ。』

ドキリとした。
ベルはいつか言ってくれたっけ。
私の家族になりたい、と。
あの時は嬉しかった。
だけど。

『オレ、は。ずっと変わらないと思う。ルナを守りたい・ルナの力になりたい。・・・・・それは、ずっと離れても変わらないから。』
ベルは。
あの時よりも、ゆっくりと、はっきりと、言葉を紡いだ。
あの時よりも大きな心で。あの時よりも逞しく。
『だから、いつか。・・・・・ルナがオレを頼りたい、って思ってくれた時は、いつでも頼っていいよ。』
ベル・・・・・・・!
『今は、さ。ルナがみんなと一緒に力になってやって欲しいんだ。』
わたし、が?
『あの星でリーダーとしてみんなを引っ張っていってくれたろう?あの時のような、強い力で。・・・・・これから、きっと、一番辛い思いをしていくだろう、カオル、に。』

ベル・・・・・・!!

『ごめん、ルナ。わかってるけど、ルナも辛いって。オレ達、完全な奇跡の英雄にはなれなかったようだし、いろいろ疲れてるし、だけど。』
ベル、私、ね?
『見ててやってくれ、カオルを。・・・・・もう、二度と闇の中に迷い込まないよう、に。』
私、私ね?
『ルナだけはずっと。手を、離さないでいてやって欲しい。』
ベル、私はね・・・・!
『ごめん、オレがずっとここにいてやれなくて。ごめん、力になれなくて。』


「そんなことない!!!」


思わず、ベルの胸に飛び込んでギュッと胸元の服を握り締めた。
あとからあとから涙が溢れてきて。
ああ、私、ベルに甘えてるなぁ、って思う。
ベルの優しさに甘えてる。


ベルが好きだよ。
そうやって自分のことよりも、みんなに優しさをくれるベルが好き。
それは、ベルの力、だよ。

「私、ちゃんと見えてるよ!ベルのことちゃんと見てるよ!!」

ありがとう、と。彼は言った。
優しい真綿のような柔らかい笑顔で。
私の目を、見る。


『カオルを救えるのは、ルナだけ、だ。』


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ごめん、という言葉は。

むしろ、私の言葉だった。


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『ベルがそんなこと言ったのか!』
モニターごしに、再びメノリが目を丸めた。
ルナの膝の上に再びおさまったチャコも「おっどろきやぁ〜!」と感嘆の声をあげる。
「思えば、ね。」
家族を助けるために旅立っていったベル。
きっと、彼も今頃、遠い空の向こうでカオルを心配してる。
「ベルが一番よくカオルを見ていたのかも。カオルもなんとなくそれをわかっていたから、ベルには一目置いていたのかも、ね!」
「ああ〜ん?カオルのやつがベルに一目置いてたぁ〜?アイツがそんなんカワイイこと、してたかいな!」
チャコの辛口批評にルナもメノリも笑う。
「してたのよ!だって、カオルって最初から、ハワードには散々イヤミ言ってたけど、ベルには絶対言わなかったじゃない?」
「・・・・・・せやな。」
『確かに、そうだな。みんなに見えない部分でベルを手伝っていたことも多かったみたいだし、ハワードと違って、ベルは真面目だったからな。』
「ハワードが聞いたら怒りそうね?」
『ハワードのやつはカオルが諌めてくれて丁度良かったんだ。本当にどうしようもないやつだったからな!・・・・・とはいえ、今回の話で一番先にこちらに連絡よこしたのは、やつ、だったりするんだが。』

「ええええ〜〜〜〜〜!!!!!」
ルナとチャコ、二人ハモリでの驚き。

「ハワードってば、今、卒業試験の創作劇の稽古で忙しいって言ってたのに!!」
『・・・・・忙しいのは本当みたいだがな。どうやら、本気で心配らしい。カオルは強がってるが変に弱いところがある、とか、この先アイツの未来を潰したら僕らのせいでもあるんだ、とか、珍しくブツブツと殊勝なこと言ってたし、な。』
「ホントにぃ〜〜〜!!??」

意外や意外。
一番、仲が悪かったと思いきや。

『予備審問会にも必ず行く、って言ってたぞ。』
「信じられないなぁ〜!」
『今度は、「パパ」の力を借りずに、自分で本当の気持ちを言うそうだ。』
「へぇ。」
ま、家出中の今はパパに泣きつくのも、さすがに恥ずかしいんだろうが、とメノリは付け加え。

『仲間の未来を潰したくない、と、そう言っていた。』




・・・・・・カオル、わかる?

『一人じゃない』って本当でしょ?

みんな、仲間、だよ。

いつまでも、仲間、だよ。




「・・・・・・・離れちゃった仲間も多いけど。」
涙はもう、乾いていた。
はやる、気持ち。何かに似ている。
・・・・そうだ、長く生き抜いた、あの島を出て大陸へ行こうと決意した、あの時。
みんなで「オリオン号」を作り、帰還への夢を抱いて、冒険の船旅に出発した、あの日、の。
「心は一つ、だね!・・・・・・頑張んなきゃ!!」
『ああ、それこそ、ルナだ。』

メノリが柔らかく笑う。
以前はアダムに笑いかけることもできない、と悩んでいた生徒会長も。
今、は。こんなに。

『ルナのその言葉のおかげでもある、な。』
「え?『頑張ろう』?」
ああ、とメノリは頷く。
フッと一つ、息を吐き。
『・・・・・一つだけ、言わせてくれ。』

これからも、私達は、仲間の危機が生じれば、無償の協力を惜しまないだろう。
私たちが、あの星で学んだことは、何事にも変え難い、これから人生を生きていく為の『希望』だったのだから。
だけど、な。


『やはり、カオルを救えるのは、お前だけだと思うぞ。』


このあたりの意見は、全員一致しているだろう。
アダム以外、は、な。




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メノリとのテレメッセージを切った後、案の定、ハワードやベル、シンゴから立て続けにメッセージが入った。
長電話すぎる!と怒るハワード、ひたすらカオルの心配をするベル、審問会開催を決定した管理局に怒りをあらわにするシンゴ。
みんな、みんな、・・・・・・優しい、仲間。

最後に、玄関のベルが鳴り響いた。

「おっ!?来よったでぇ〜!!ルナ!!何かと、ここを避難所にしてるメルヘン少女、シャアラちゃんが!!きっと、『ルナァ〜!!聞いた!?カオルがかわいそうよぉ〜!』とか言って大泣きするんやろぅな〜?・・・・・アカンなぁ〜、ルナ。先に泣かれたら、泣かれへんやんか、なぁ?」
チャコがウシシ!と笑ってルナをからかう。
「もう!うるさいな〜!チャコったら!」
「あぁ、ええ・ええ!ウチが出るわ!!ルナは先越されんように、ここで涙溜めとき!!」
「もうっ!!チャコ〜!!」
チャコはピョン!と飛び跳ね、玄関の方へ転がるように駆け出した。

ほどなくして、チャコが一人、テクテクと歩いてきて、ルナを覗き込んだ。
「あら?チャコ?シャアラはどうしたの?」
チャコは困ったように、え〜と。とつぶやくと。
「もう、玄関先で号泣しよってな〜。ウチじゃ手ェつけられんねん。・・・・・・ルナ、行ったってェ〜な?」
「な〜んだ。」
ルナも困ったように首をかしげ、少し笑ってチャコとバトンタッチした。
玄関に向かって歩きだすルナの背中を見送って、チャコが再びウシシ・・・・と笑っているのを
彼女は気付かない・・・・・・。



玄関近くの窓からは星空が見えた。
コロニーの人工の夜空は、日々、多少の変化はつけられているが、大抵は晴れている。
あの高性能モニタードームの外には、本物の宇宙が広がっている。

みんなで見上げた。
あの星の夜空にはかなわないだろうけど。


・・・おかしいな?シャアラ、外にいるのかしら?・・・入ったらいいのに。
泣きすぎて恥ずかしいのかな?

疑いもせず、玄関の自動ドアオープンのサイドボタンを押して。
「シャ〜アラ!!」



アパートのエントランスへと続く玄関を越えた廊下は吹き抜けとなっていて、外の闇が目の前までせまってくる。
その闇に溶けたような人影が一瞬、驚いたようにたじろぐ。
そして、ちょっと戸惑ったように一歩、下がったあと。
少しずつ。少しずつルナの方へ歩いてきた。

あれは・・・・・。

やがて。
扉の前の小さなランプに浮かび上がる、・・・・・見慣れた・顔。


「カオル・・・・・・・・・・・・!」




みんなの心配の種、の主は。
意外にも明るい顔で、少し微笑んでいた。
相変わらずの黒い服、黒い靴。
だけど、その黒い瞳には。
少しだけ、光、を映して。

「あ、え〜と。その。・・・・・シャアラかと思っちゃった。ゴメン。」
いや、と答えてカオルはまた微笑む。
「シャアラなら、下で会った。」
「ええ!?」
「・・・・・俺が行くなら、自分はもう行く必要がない、と言って帰った。」
「えええ〜!?」
シャアラ、ったら!!
「それに。」

カオルは諦めたような吐息を吐くと、吹き抜けの空に広がる星空を見上げる。
その顔は。
清々しいほどに、澄んだ表情。

「管理局から帰ってくるなり、次から次へとメールが入ってきて、全員から散々脅されたから。」
「は!?」

横顔に、強い決意。
凛、とした。あの時の顔と同じ。
学校の屋上で見た、夕日に染まる、顔。
・・・・・あの星で見た、本物の夕日に染まる、顔。

「・・・・・・今すぐ、ルナのところに行け、だ、そうだ。」



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私達の未来は。

決して、大きく・確かなものではないけれど。

こうやって、お互いに優しさを紡いでいって。

少しずつ・・・・少しずつ、形にしていく。


未来は、作り挙げていくもの、だね。
そうやって、私達は生きていくんだ。

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半月後の予備審問会を経て、更に一ヵ月後、本審問会が開かれた。
一般聴衆も取り入れられた本審問会は、ヴィスコンティ一族やハワード財団、また影ながら私達を応援してくれていた一般の方々の後押しもあり。
その更に10日後に、カオルの無罪の知らせを受け取ることになる。

未来は、開かれる。

END _______________________
2006・3・29

 


 

eriy
アニメでは、めでたく無事帰還!・・・・で終わっていたのですが、考えてみれば、未知との遭遇を果たした奇跡のお子達な訳ですよ!!(笑)
きっと、帰ってからが大変だったろうな・・・・と考えての、このお話。で、カオルに犠牲になってもらいました(笑)だって、エイリアンの宇宙船を持ち帰ったんだし、未成年パイロット!!なんだかんだいって、強運の持ち主であるサヴァイヴ・メンバーに 『世間はそんなに甘くありマセン』 ということを味わってもらいました。
・・・・そんで、こんなに長くなってしまいましたネ。
2006・9・10